ヘッドホンは用途に合わせて使いこなそう AKGで考えるモニターヘッドホンの選び方
モニターヘッドホンの選び方
レコーディング、ミックスなど制作環境では欠かすことのできないツール、ヘッドホン。
プレイヤー、エンジニア、プロデューサーと立場によって必要とされる役目も変わり、選び方にも悩みが生じるところです。
そこで今回はトップブランドの一つであるAKGのプロフェッショナルヘッドホンを例に用途に最適なヘッドホン選びをご紹介しようと思います。
AKGは1947年に音楽の街としても名高いオーストリア ウィーンに設立された音響機器ブランド。特にマイクとヘッドホンでは長きにわたり不動の評価を得ています。
プレイヤーが選ぶモニターヘッドホン
プレイヤー(演者)側がヘッドホンを選ぶときのポイントで代表的なものは演奏の妨げにならい装着感、外部の音がなるべく入らない(逆に外部に漏らさない)遮音性が挙げられます。
長時間に渡る場合もある演奏や身体を動かす楽器演奏において装着感、大事ですよね。重すぎてもストレスですし、頭振ったら外れそうになるとかも論外….
遮音性も非常に重要です。基本的にレコーディング環境では前に録った音源を聴きながら演奏を重ねていく手法が一般的ですので、漏れた音がマイクにさらに乗ってしまうことはNGです。
なんか、曲みたいなノイズがなってるな…まさか心霊現象?!?と思ったらまさかのヘッドホンからの漏れだったという笑い話みたいな….多分そんな経験あまりないと思いますが、私はあります(笑)
遮音性を優先する場合、密閉型(クローズ型)と呼ばれる構造のヘッドホンが有利です。
ということで今回演者さんにオススメするヘッドホンは AKG K175-Y3です。
少し小さめのイヤーカップが自在に稼働し、例えばボーカリストやナレーションなど口を大きく動かす場合でもストレスが少ないです(個人的にはここかなり重要)。
ボーカリストのレコーディングヘッドホンとして長く定番だったK170の流れを汲んでるなと感じます。
イヤーパッドも反発が少なく装着には押圧以上に密着感があります。
また可動域の多くに金属製のパーツを採用しておりタフ。コンパクトに折りたたむこともできます。
在庫限りの販売ですが価格も直近で値下げしていますのでコストパフォーマンスは抜群です。
AKG K175-Y3を装着したときのイメージです。いわゆるモニターヘッドホンの中ではイヤパッドが小ぶりな感じがわかるかと思います。耳に乗せる感じの装着感になるオンイヤータイプです。
大きく口をあけたところ。いわゆる「AHHHHH」の発声のイメージです。顎の稼働部へのストレスが少ないです。
いや、わかりますよ、あくびにしか見えないというご意見。わかります。でもこれは発声です。
サウンドメイク作業に選ぶヘッドホン
いわゆる卓側、サウンドメイク作業のシーンを考えてみましょう。
環境にもよりますが、アマチュア環境の場合、演者とサウンドメイクオペレーターの距離感を取ることが難しい場合も多く、密閉型の方が使いやすいでしょうか。
ただ、この作業を担当する方はそのままミックスやマスターまでやっていくというケースも多いため、レンジ感や空気感も欲しい。そうなると密閉型+大口径ドライバーの組み合わせにアドバンテージを感じます。
そこでオススメは AKG K275-Y3 。
このクラスでは最大級となる50mmのドライバーを搭載しており不自然な感じがない精密でかつ迫力のある低域を持っています。サウンドメイクの悩みのタネ、ドラムの音決めにも戦力になりそうです。
こちらのイヤーパッドも密着感を感じる低反発素材。
ヘッドホンサイズは大きいですが収納時は結構コンパクトです。作業の場所が変わっても持ち運びやすいのは有り難いですね。紛失注意ですが….
こちらもごく直近に販売価格を変更しました。在庫限りですが、今現在「世界最安」だと思います。
K175/K275のサイズ感を比較。右がK275です。重厚感ありますね。
AKG K275-Y3を装着したイメージです。耳全体を包み込むようにおおうアラウンドイヤースタイル。
ミックス作業に選ぶヘッドホン
そしてキモとなるミックス作業です。音質はもちろんですが何より繊細さが求められます。
定位感、奥行き感、当然ですが各楽器のバランスを丁寧に根気強く進めていく作業です。楽しいけど辛い時間ですよね(苦笑)
作業環境はある程度整えやすいと思いますのでセミオープン型でもいいと思います。
セミオープン型は密閉型(クローズ型)と開放型(オープンエアー型)の中間的な構造で、遮音性もそこそこあり、リスニング時の自然な広がりも楽しめる、ちょっといいとこ取りなマルチプレイヤーです。
話を戻しますが、ミックス作業は一連のレコーディング作業の中で最も時間のかかる部分ですので快適さは追求したい。そして精密な再現能力….
本命すぎてつまらないかもしれませんがやはり AKG K240 MKII-Y3 です。
先代の K240も長くレコーディングエンジニアに支持された名機でした。
MK IIではそのDNAを引き継ぎながら新たなテクノロジーを投入。例えば…
バリモーションテクノロジー
ダイヤフラムの厚みを中心部と外縁部で変えることで、ダイヤフラムの動きを適切に制御する技術です。厚みを持たせた中心部の「SOUND ZONE」は、歪みの原因となる分割振動を抑制し、極めてクリアな高域が得られます。
比較的大型のハウジングでありながら重量は約240gと軽量で軽快な取り回しも魅力です。
マスタリングで選ぶヘッドホン
いよいよ最終段階です。
マスターコンプ、EQなどで音の最終調整や音圧などをチューニングします。
最終工程ですから、ここで作られた音は基本的にそのまま、リスナーの耳に届きます。リスナーの環境も多様化しており圧縮やヘッドホン/イヤホン、スピーカーなど多岐にわたるのが昨今の情勢…
可能な限り様々な環境で聞いておきたいところですが(昔はあえてラジカセで聴いてみたりしてたなあ…)、今回は音場の広さと自然な空気感にこだわって選んでみました。
そうなると、やはり開放型(オープンエアー型)のヘッドホンに優位性があります。
オススメは AKG K712 PRO-Y3
AKGヘッドホンのロングセラー&トップセラーモデルの一つで、ミュージシャンだけでなくオーディオファンにも永く支持されている名機です。
空気の流れを妨げないオープンエアー構造で特に中高域の伸びやかさが秀逸。反面オープンエアーではやや弱点とされていた低域の再生能力も上がっています。鮮明でありながらも、もっさり感のない、量感溢れる低域。これはK240で紹介したバリモーションテクノロジーも一役買っているようです。
もう一つご紹介。
全国に緊急事態宣言が発出されコロナ禍に苦しんでいた2019年4月、大きな話題となった動画がありました。
日本を代表するロックバンド「B’z」が”HOME at home”として公開してくれた「Home」。
ファンだけでなく多くの方が勇気付けられましたね。
私も感動しました。
感動のあまり3回ほど連続で聴いたところで職業病が頭をもたげます。
「稲葉さんのヘッドホンAKGじゃね?」
はい、どうみてもAKG。おそらくK702ってとこまではすぐ分かったんですが、イヤーカップの上になんか見たことないロゴが入ってるんですよ。
なんやろうこれ?そんなモデルあったかなあ?気になってお昼のラーメン、替え玉できなかったです。
で、輸入代理店さんに調べてもらったり方々当たってみたところ(仕事しろ)、遂に、わかりました(笑)
長すぎる前置きでしたがもう一つのマスタリング環境にオススメのヘッドホン AKG K702-Y3 です。
ベロア製のイヤーパッドは厚みもあり装着感は抜群。
K712 Proとは1万円程度の価格差があり、コストパフォーマンスに優れたモデルです。
その他のモニターヘッドホン
今回AKGを中心にご紹介してきたモニターヘッドホンですが、このジャンルには日本発のワールドスタンダードも存在します。さすがにこれは外せないと思いますので紹介します。
それがSONY MDR-CD900STです。
もともとは、CBSソニー信濃町スタジオ(現:ソニー・ミュージックスタジオ)で使用することを目的として自社で開発されたMDR-CD900STが、スタジオユースの業務用として販売され、数多くのレコーディングスタジオで使用されました。その関係でレコーディングを行うアーティストにも使用者が広がり、レコーディング風景などの画像がTVや雑誌に露出することで一般的にも有名になっていきます。その結果、一般からの購入希望が殺到し、その要望に応えるべく1995年より一般販売も開始、そのままロングセラーとして現在に至ります。
原音の再生性能、モニタリングに必要な分解能、耐入力(最大入力:1,000mW)に特化したまさに質実剛健、プロ仕様のヘッドホンです。
AKGからもう1機種
2019年に再登場となったAKG K701-Y3。気品さえ感じさせるホワイトの筐体にこれもゴージャスな厚みのあるイヤーパッド。ケーブルはAKGでは珍しい脱着できないタイプの片出し仕様です。
一度完了となる前から非常に人気の高いモデルでしたが、アニメ「けいおん」の中で秋山澪さんが使っているシーンが描かれた事で「澪ホン」としても有名になりましたね。
正面が透明のボードになった高級感のある化粧箱梱包になっており贈り物としても喜ばれる事間違いなしです。
モニターヘッドホンの選び方まとめ
今回はAKGを中心に用途に合わせたモニターヘッドホンの選び方をご紹介しました。
もちろん全てのシーンで別のヘッドホンを使う必要があるわけではなく、兼用可能ですが、ご自身が主に担当するジャンル(演者、プロデューサー、エンジニア)に合わせたチョイスを考える事でより良いモニター環境を手に入れることにつながれば幸いです。