【音楽で食べていく010】「sakura」のヒット〜脱退〜再結成を経たニルギリス。伊藤孝氣氏がふりかえる結成時からヒットまで
2021年に再結成を果たしたニルギリス。創設当時のメンバー3人によって復活し新旧のファンの注目度も上昇中。スマッシュヒットとなった「sakura」の2022verや、3月に配信されたばかりの「Emoな革命」で、この先の活動が期待される。創設メンバーでもある伊藤孝氣さんに聞く「音楽で食べていく」やいかに。
PROFILE / プロフィール
伊藤孝氣
ニルギリスのギタリスト。1993年、近畿大学在学中に佐竹モヨ氏とニルギリスを結成。2007年に脱退。
2021年6月に再結成を発表し、岩田アッチュ氏(Vo)と佐竹モヨ氏の3名で活動を再開。
ニルギリス公式サイト https://nirgilis.net/
ニルギリス公式Twitter https://twitter.com/NIRGILIS_com
伊藤孝氣氏 公式インスタグラム https://www.instagram.com/metagalaxies1/
出会いからニルギリス結成となった大学時代
──── 再結成、おめでとうございます! お話をお聞かせいただけるということでとても嬉しく思います。まず伊藤さんご自身がバンドをスタートするキッカケってどんな感じでしたか?
高校の頃、バンドをやりたかったんですが全然できなかったんですよ。まわりは結構バンドやっていて。自分は近所のスタジオに入って音を出してみるくらいでしたね。ギターだけは弾いている高校時代を過ごしました。
大学でやっとバンドマンらしくなれたというか。近畿大学の軽音楽サークルがあって。そこで5、6つくらいバンドをやりましたね。プライマルスクリームやブラッククロウズ、スープドラゴンズ、クイーン、プレイグスなど洋楽から邦楽まで幅広くコピーしていました。
大学入学時にキーボードを手に入れて、打ち込みで曲作りもはじめました。ただサークルではそのオリジナル曲を共有できるような人はいなくて、心斎橋の三木楽器のメンバー募集を見つけて。そこで出会ったのが佐竹君(ニルギリス創設メンバーである佐竹モヨ氏)です。
彼は偶然、同じ近畿大学で英語で劇をする学科に通っていて、これまでに出会ったことのないタイプの人でした。
──── お互いの共通項はどこかにあったのですか?
ナイン・インチ・ネイルズやデペッシュ・モードとか、共通して好きだったバンドがあったんですよね。それで一緒にバンドをはじめました。最初はドラムもベースもいない3人編成で打ち込みを鳴らして、ライブよりもデモテープを作っていくことをメインとしていた記憶がありますね。
大阪に「TIME BOMB RECORDS」というお店があって、Buffalo Daughterとかチボマットとかお店で流れてて、こんな音でできれば良いなと。
見様見真似でやっていくんですけど、ああいう風にはならず、自分たちのオリジナリティが出来上がっていった感じがありますね。
そのうちライブハウスに出ようと。ドラムやベース、パフォーマー含めて10人編成とかでやっていました。
「時代の音」がした思い出の機材たち
──── ご自分はギターを弾かれてたのですか?
ギターも弾いていましたけどライブでは、8トラのカセットレコーダーをミキシングしながら演奏していました。発売する音源もテープで製作して。それを「TIME BOMB RECORDS」とかタワレコさんで売るようになりました。
レコーダーは、TASCAMの「PORTASTUDIO 488 mk2」を使っていて、佐竹くんも持っていたのでバンドで2台持ちして使っていました。ローランドの「VS-880」が登場するまでは使っていましたね。
ハイポジ(カセットテープの種類)で録音すると面白い音がかなり作れたんですよ。
──── その当時は録音機材の過渡期でもありましたよね。
ゲーム機の進化にも近いものがありますよね。
MDでライブやったこともありますよ。ドラムのキックでMDが止まってライブハウスの人に怒られたこともありましたね(笑)。
(※当時のCDやMDは再生中に振動が加わると”音飛び”することがあった)
なので「VS-880」でバンドがかなり進化したと思います。バンドで4台ぐらいもってたかも。サンプラーも登場して、各機種それぞれに音の特徴がありましたよね。VSにはVSの音がありましたし。
最近、友達から昔のニルギリスの音源をもらって聴くんですが、涙無しには語れないですね(笑)。今考えるとテープのレコーダーなんかは入力段とプリアンプが一緒になっていたりして、アナログ体験の渦のような感じだったなと。
プロになってからのレコーディングで、なかなかあのテープの温かさは出なかったです。逆に苦労したというか。初期のサンプラーもロービットでしたし。部品ひとつひとつも違いましたしね。一個ずつ解明していかないと再現するのも難しいと思います。
──── 今はモデリングが当たり前になっていますもんね。
当時の機材の保管の仕方とかも再現しないと本当に音の質感を再現するのは難しいんでしょうね。アナログは特に。
岩田アッチュ加入後に「sakura」がヒット
──── ライブ活動はどのように進んでいったのですか?
最初は、佐竹くんがヴォーカルだったんですけど「女の子を入れたいよね」って話になって。
そこで加入したのが岩田アッチュなんですけど、彼女はキーボーディストとして加入しましたが、のちにヴォーカルとなりました。それでライブ活動をしていくうちにベースの栗原稔君(2000年加入)が入って、最後にドラムのゆきちゃん(稲寺佑紀氏 2001年加入)が入って5人編成になりました。
──── バンドがペースに乗ってくると、取り巻く環境というか新しい出会いも増えていきそうな感じがします。
佐竹君が、当時くるりのマネージャーだった藤井さん(藤井寿博氏)にデモテープを送ったんですよ。僕もくるりの青い空って曲からシングルの流れには衝撃を受けていて、「バンドってこんなに凄いんだ!」と。くるりの制作をされてる経験から刺激をいただきたいという気持ちでした。
そうして藤井さんとニルギリスの音源を作っていくことになるのですが、インディーズ版は「ゆず」が所属していたレーベルの「セーニャ・アンド・カンパニー」と組むことが決まって、製作にとりかかりましたね。
伊豆のキティのスタジオでアルバムレコーディングが始まりました。
その後、拠点も東京に移して。レーベルもSONYのデフスターレコーズに移籍したりと。そこで2回目のメジャーデビュー、アニメ「交響詩篇エウレカセブン」の主題歌にもなった「sakura」をリリースしました。
ニルギリスの魅力の一つとなった “マッシュアップ” という手法
ヒットした「sakura」という曲も、有名な「アメイジング・グレイス」という曲を取り入れて作った曲です。
当時のDJ界隈ではよく用いられていたマッシュアップという手法をニルギリスも使っていました。他の曲でも自由度高くマッシュアップできるのですが、著作権の問題にもなってくるので、そういうところで使いやすい・使いにくいといった問題は起こってきますね。
マッシュアップとは?
“複数の要素を複合させ新たなコンテンツを作り上げること。”とされているが、ここでいうマッシュアップは自分たちの曲と他のアーティストの曲を組み合わせて全く新しい曲を作り上げること。印象的なサビやフレーズを、自分たちの曲に「自然」に融合させるには、高度な知識やセンスが必用となり、「sakura」はそのお手本として挙げられる楽曲でもある。イントロやサビ、間奏などに「アメイジング・グレイス」のサビがループしている。
──── 「sakura」はタイアップが決まっていたんですか?
お話もいただいていましたし原曲も出来ていましたね。
ただアニメの最終回でオペラが流れるシーンがあるとなって、さてアレンジをどうしようか? となり、TSUTAYAにオペラのCDを借りに行った記憶があります。
マッシュアップといえば、アンダーワールドの曲をマッシュアップして、アンダーワールド側にも許可がとれたけど、レコード会社でNGになったこともありましたね。そういうことはしょっちゅうありました。
マッシュアップは例えるならいちご大福みたいなものと思っていて。いちご大福って美味しいですけど、最初にいちごと大福の組み合わせを発見してしまった感覚に近いと思います。
──── それを発見するまでは誰も考えつかないですもんね。
普通に生活していたら、メンバーとも出会わなかったかもしれないですけど、こうして一緒にバンドをやることによって、「アナタと私が組み合わさったらどんな面白いことが起こるのか?」ということを考えていましたね。
レコーディングのスキルとかよりも、そちらのアイデアの方に重点を置いていたというか。よくアッチュが作った曲と自分がつくった曲を組み合わせていたりもしましたよ。
──── 「sakura」のヒットの翌年に伊藤さんは脱退されていますが、どのような経緯があったのですか?
自分含め、全員が真剣だっただけに色んなところで火花が散る状況でした。
さらに色んなお仕事をして目まぐるしくて、いっぱいいっぱいだったのかも。制作に関わってくれるスタッフの人たちを見ていて、そちらも面白そうだなとも感じていましたし。色々音楽以外も勉強して更に音楽が好きになりたいという気持ちが高まってきました。────
と、前半はここまで。
後半はニルギリスを脱退していた期間、どのような活動をしていたのか、そして再結成から未来について語っていただいてます。お楽しみに!!
【音楽で食べていく011】脱退後、人を育てる奥深さに気づいたニルギリス伊藤孝氣氏。デジタル発展の恩恵とメンバーの成長を実感した再結成。
目次 1 ヒット後、忙しさと違う景色が見え始めて脱退 2 “育てる” 面白さに出会いプロデュースの道も経験 3 音楽から離れた場所で見たニルギリスの “全員脱退” と、新しい時代の到来を確信 4 アッチュから再結成打診の … 続きを読む
(執筆&編集 赤坂太一)