【音楽で食べていく012】回路でもパーツでもなく、北田駿一氏の生き様から生まれるKarDiaNの音
近年、プロアマ問わず愛用者が急増している滋賀県発のエフェクターブランド「KarDiaN:カージアン」。このたびチューヤオンライン20周年記念の限定コラボファズ、“VITAMIN C”チューヤモデル(Vitamin C Pumpkin Orange Ver.)が実現した。主宰者でありメインビルダーでもある北田駿一(きただとしかず)氏は、なぜ音楽に関わる仕事を選んだのか? その経緯や哲学を伺い、図らずともKarDiaNサウンドの秘密が明らかに。
↓Vitamin C Pumpkin Orange Ver.の記事はコチラ!
今回の「音楽で食べている」人
プロフィール
北田駿一(きただ としかず)
2022年9月に設立5周年を迎える滋賀発のエフェクターブランドKarDiaNの主宰者でありメインビルダー。
KarDiaNのペダルは現代的な使用感と独特のエッジの効いたサウンドが特徴で、続々と新しいファンを獲得。
近年、最も飛躍したエフェクターブランドの一つ。
プレイヤー視点ではなくエンジニア視点からロックと邂逅
──── 北田さん、音楽との関わりはどのように始まったのですか?
僕は子供の頃はずっとサッカーをやっていまして、音楽の成績は“2”、リコーダーも吹けないくらいダメダメでした(笑)。
──── 意外ですね!
音楽としっかり向き合うようになったのは、高校で友達に「吹奏楽部に入ろう」と誘われてからです。そこではトロンボーンを担当していましたが、あの楽器はむちゃくちゃ難しかったですね……。それから合唱部に移りまして、歌の音程をとる必要からキーボードを触り出して、そこでようやく心から「これは楽しい」と感じるようになりました!
────では、北田さんの原点はキーボード?
そうですね、それも弾く方よりもレコーディングの方です。合唱用の編曲作業をする中で、録音をし始めたんです。
学校のPCで録音、ミックス、マスタリングなんかをして……。それが凄く楽しかったんですよ! そうなると楽曲を構成している他のパートのドラムやギターの音も気になり出して、それからロックなんかを本格的に聴くようになりました。
──── かなり珍しいルートで辿り着きましたね。もともとギターキッズだったとかではなく、エンジニア気質からロックに行き着いたという……。
高校卒業後レコーディングスタジオへ、その後大学に入り直しつつ起業
──── エンジニア視点でロックを聴くようになり、その後は?
高校を卒業して、大学に行かずに何も知らないままプロのレコーディングスタジオに飛び込んで、“8の字巻き”から教えてもらいながら(笑)、エンジニアとして働き始めました。
──── 専門学校とか行かずに、いきなりですか? 凄い行動力ですね!
そうですね。機材の電源の入れ方もわからないのに、プロの現場に飛び込みました。行動力というか、僕は好きなことしかやれない体質なんです。
ですが、これが全く食えない(笑)。「音楽で食べていく」のは無理だということで(笑)、大学に入り直して情報工学を学びつつ、同時に自分でフリーランスのエンジニアとして起業しました。
初めてのエフェクターがAnalogman Sunface NKT275 Red Dot!
──── 大学生で起業ですか。行動力と決断力があり過ぎです(笑)。そして、まだ人生にエフェクターが出てこない(笑)。
大丈夫です、ここからです(笑)。
その頃、僕は大学生ではありましたがエンジニアの仕事も個人事業主としてしっかりやっていたので、同級生達よりは経済的に潤っていたんですね。そこで、お金に困ったバンドマンが私に「機材を買って欲しい」というようになったんです。その中の一つが、これです。これは、僕が人生で初めて買ったエフェクターです。
──── えーっ!? 「Analogman Sunface NKT275 Red Dot」じゃないですか!! これが人生の初エフェクターっていう人、初めて見ましたっ!!(笑)。
(※ かなりマニアックなファズです。2022年現在、入手が非常に難しく中古市場で見かけたとしても、価格は二桁万円かと思われます……。とにかく当時の話であっても、絶対に「人生で初めて買うエフェクターではない」と断言できます!!)
そうですか? とにかく、これが大好きになりまして、それ以降、エフェクターは見るのも触るのも音を出すのも集めるのも好きになりました。
大学卒業後はIT系企業に入社し、そこでメチャクチャに働いたんです。僕、仕事が好きなので、あっという間にそこそこのポジションに行きまして、このままだと面白くないなと。
IT系企業での出世を捨て、作ったことがないエフェクターで起業を決意!
──── 出世しておいて、面白くないと(笑)
先が見えているじゃないですか。やはり自分で仕事がしたい、何の仕事をしようか、と考えた時に大好きなエフェクターを仕事にしたい、エフェクターで起業しようと思ったんですね。
でも、その段階で僕はまだ一台もエフェクターを作ったことがなかったんです。
そこから会社を辞めて、ひたすらエフェクターを研究し、作り……、ということをやりました。先ほど、僕は好きなことしかやれない体質と言いましたが、逆に好きなことなら命を削ってでもできるんです。もう家から出ずに、人と会う用事も作らず24時間ひたすらエフェクターと向き合っていたので、髪型も気にする必要がないなとスキンヘッドにしていましたね。その状態で1年くらい、家にこもっていました。
──── 北田さん、行動が全て極端で、なおかつ徹底していますね。段々、わかってきましたけど、KarDiaNのペダルってどのモデルにも特有のエッジがあると感じていたのですが、それを生み出しているのは回路やパーツではなく北田さん自身ですね。
そうですか? 僕は元々、こういうタイプなので……。で、そうして出来たのがKarDiaNの初期の3機種、「ニトログリセリン」、「クロロホルム」、「アドレナリン」です。それまでエフェクターを作ったことがなかったのですが、普通は何かのコピーから作ると思うのですが、そういった気は一切ありませんでした。この3機種ができたタイミングで、エフェクターのコンテストが開催されると知ったので、それに応募したんです。
優勝する気で臨んだエフェクターコンテストで、まさかの同着一位
──── そのコンテストで優勝して、KarDiaNの名前が一般に広まったんですよね。応募する時点で、優勝する自信はあったのですか?
もちろんありました。
「ニトログリセリン」の出来にも自信がありましたし、以前IT系企業で何億円というビジネスの企画書を書いたりしていたので、応募するエフェクターの説明書き一つ取っても、他とは違うわかりやすいものができていると思ったんです。で、絶対優勝すると思っていたら、そのコンテストにLimetone Audioが参加していて、まさかのダブル優勝になったという……(笑)。
KarDiaNは錆びていない!?
──── そうして、KarDiaN製品が世に出てきたわけですね。その初期の3機種や、“VITAMIN C”チューヤモデル(Vitamin C Pumpkin Orange Ver.)もそうですが、KarDiaNといえば一目でわかる「錆」ですよね。
そうですね。まぁ、錆びてはいませんけど。
──── え?
錆びていないですよ?
──── ええ??
《後編に続く》