【音楽で食べていく007】MASTER 8ピックのセールスマネージャー・アーティストマネージャー・ギターテックと、マルチな活動でプロからの信望も厚い吉田拓也さん
耳の早い楽器好きならチェック済みであろう新進気鋭の国産ピックブランド「MASTER 8 JAPAN」。
著名アーティストがこぞって使用するほどのクオリティで急成長を遂げているメーカーでもあります。浸透の速さもさることながら、品質へのこだわりや、そのリレーションの秘密に迫ってみました。
話を聞くと、ピックの製造販売だけではなく、まったく違うワークスタイルを同時にこなすマルチな才能に驚きました。
”楽器人”吉田拓也さんの素顔に迫ります。
姫路から上京しバンド活動。のちに……。
ーーよろしくお願いいたします! 今回はFIVE NEW OLDさんのライブで福岡にお越しいただいたタイミングで取材させていただいております。吉田さんはMASTER 8 JAPANのセールスマネージャーをしつつ、FIVE NEW OLDのアーティストマネージャー、さらにCrossfaithさんのギターテックと、マルチな活動をされていますね?
はい、兵庫県・姫路市からバンドで上京したことをきっかけに、音楽事務所勤務を経て、現在はアーティストマネジメントのお仕事、楽器好きが高じてバンドのギターテック、そしてMASTER 8 JAPANのセールスマネージャーを務めさせていただいています。
それぞれの仕事が、少しずつ重なるところがあって、やりたいことはできるところまで全部やろう、という感じでやらせてもらっています。
MASTER 8 JAPAN公式HP:https://master8japan.jp/
Crossfaith公式HP:http://crossfaith.jp/
FIVE NEW OLD公式HP:https://fivenewold.com/
ーー学生の頃は地元でバンド活動をされていたのですか?
僕は兵庫県・姫路市出身なのですが、当時、バンドが盛んで。GARLICBOYS、NAMBA69のメンバーなどの先輩方がいました。僕自身も高校でバンドを組んで卒業後は東京に出ようと。ESP学園のギタークラフト科に進学するというカタチで上京しました。
学生時代にサマーソニックにライブを観に行った時、バンドメンバーが出てくる前にステージで機材のチェックをしている人に目が行って。「あれはなんていう仕事なんだろう?」と。機材も好きだしその頃から裏方志向もあったんでしょうね。
上京して早い段階で、音楽の才能が無いなって気付けたのは良かったと思っています(笑)。
地元では先輩のツアーに呼ばれたりして、東京でも「いい感じになるんじゃないか」と思っていたのが、上京してバシーンと鼻を折られた感じがありました。バンドの数も地元と比べ物にならないぐらい多かったり。学校行きつつバイトもして金銭的にも余裕がない生活を送っていました。
学校ではギタークラフト科だったので、授業自体は楽しかったですね。あるとき、当時Sony Musicに所属していた「UNLIMITS」という先輩バンドのレコーディングに呼ばれたことがあったんです。楽器のことがわかる存在として声をかけてもらいました。
プロのレコーディングスタジオに行けば「そういう」人たちがいるはずで、なにかあるかも? と期待しながら現場に向かいました。専門学校も卒業間際でバイトもしつつという時期で、音楽に関わる仕事はしたいけど、どうすればよいのか、なかなか見えない感じでもありましたね。
ーー業界との接点ができるかも! みたいな?
はい。レコーディングスタジオでは、バンドメンバーの楽器の弦を張り替えなどを手伝って。そこでSony Musicの担当の方が「人が足りていないので面接を受けてみますか? 若い人材が必要だから」と。「これはチャンスだ」と思い名刺をいただいて、翌日すぐに「昨日の話なんですけど!」と電話をしました。本気ですと。
電話をかけて先方は「わかりました。」とお返事をいただいたのですが、それから面接まで5ヶ月くらい空いたんですよ。学校も卒業しちゃっていて。なので、しばらくバイトでつないでました。
やっと面接となりSony Musicのグループ会社の「SMA:ソニー・ミュージックアーティスツ」に、アルバイトというかたちで入社できました。そこがはじめて「音楽でお給料をいただく」場所です。
実は入社するまでに面接も何段階かあって。最初の面接で「音楽業界でどんなことをしたい?」と聞かれて「この業界のことがよくわからないのでなんでもやります!」と答えました(笑)。ダメだったかな〜と思っていたら「もう一度面接します」と再度連絡がきて、そのあと配属が決まりました。
公に募集されていたわけではないですし、こんな大きな会社ですし。ダメ元でその名刺をキッカケに手繰り寄せていった感じですね。なんかあるんじゃないか? と。
ーーそこでどんな業務を?
SMAはUNICORNや東京スカパラダイスオーケストラが所属している事務所で、僕はビジュアル系のバンドの担当になりました。
マネージャー業務はアーティストと一番近い距離で動く仕事ですが、ライブやレコーディングでのテックさんの仕事とは別なんですよね。自分は機材が好きなこともあって、先に担当されていたテックさんとも楽しくコミュニケーションを取れていたと思います。楽器が好きなマネージャー、みたいな。
そのバンドはヨーロッパなどのツアーも多く、どの国でもソールドアウトするような忙しいバンドでしたが、ステージ袖でギターの持ち替えの準備といったテック仕事のお手伝いもさせて頂いていました。エフェクターの踏み変えもしたり。
360度でレーベルも含めてマネジメント業務をしていました。アシスタントですが、全部みられるポジションだったのが、ほんとに良かったと思います。20歳からスタートして8年ほどやりました。
当時の上司や先輩方から仕事の基本を叩き込んで頂いたり、人格形成をして頂いたと思っています。
大企業の看板がなくなったら……という不安
ーー8年SMAを務められたのちに次のキャリアに?
ずっとアルバイトや業務委託という形態でやらせてもらって「これ、契約が切れてSony Musicの看板がなくなったらやっていけるのだろうか?」と不安になって。
ギタークラフトの先生だった方が「L’s TRUST」というリペアやカスタムをするショップをされていて「一緒にやらない?」と誘っていただいて。当時27歳になっていましたので「30歳までに新しいことにチャレンジしてみよう」と。
ーー機材が好きというのが大きかったのですね。
専門学校の恩師でしたし、SMAのマネージャー時代も担当アーティストの楽器周りのこともお願いしていましたし、ずっと関わりがありました。
社長1人、自分が入って2人。今までとは真逆ですよね。
ーーL’s TRUSTさんと一緒にやる最大の理由ってどんなところだったのでしょう?
L’s TRUSTにまつわることが好きということはありましたが、自分の都合でいうと、身ひとつでどこまでできるかというところでした。もちろんリスペクトしている会社に、どう貢献していけるかみたいなところは前提としてあります。
烏滸がましいですが、もっとこうしたら良いかも、と思っていたことができる環境でもありました。自分からアイデアを出せないと、そこにいってもな、というのもありましたし。
2人の会社なので、お金のこともダイレクトですし。社員として雇って頂いて色んなことがわかりました。
「オーダーギター」って、とてもハイカロリーな製品なんですよね。ものすごい手間をかけて出来上がるわけですが、在庫をストックできないタイミングもあります。そこでエフェクターもやっていきましょうとなりました。
そこからアーティストにエフェクターを持っていって「こういうのがあるんだけど」とやっていました。そこはマネージャー業やテックの経験があって自然とそうすることができたと思います。
ーーCrossfaithのギターテックをされていますがキッカケは?
SMAの後輩がマネージャーを務めていて「楽器周りのことができる人を」と彼らがテックを探していたタイミングと、僕の楽器業スタートのタイミングが合致して担当させてもらうことになりました。自分がSMAに在籍していた当時は自分の担当ではなかったんですが大好きなバンドなのでとても嬉しかったです。
MASTER 8 JAPANの設立について
ーーこれまでの経緯をお聞きしていて、現在のMASTER 8 JAPAN設立と結びつかないのですが?
L’s TRUST在籍時、ライブ会場で「吉田さんに紹介したい人がいるんです」って、とあるバンドのメンバーさんに言われて、お会いしたのがピックメーカーの池田工業の奥野さんという方でした。後に奥野さんとMASTER 8を立ち上げることになります。
Zepp Tokyoでご挨拶させていただいて、L’s TRUSTとして池田工業さんにピックをオーダーしたのがはじまりです。ずっとやりとりをしていながら、ふと「なぜこの人達はこれだけの技術がありながらもオリジナルの商品をつくらないんだろう?」と思ったんです。
仲良くなってきて「オリジナルブランドはやらないんですか?」と聞きました。奥野さんは「やりたいんですが、この岐阜にいながらだとなかなか……」とのことで、アイデアがあったので「では僕が企画書を書きますので岐阜に伺っていいですか?」となり打ち合わせを設けて頂きました。
L’s TRUSTの商品も増やしたかったというのもありますし、世界中のピックを作っている池田工業さんともっと良いものができる! と思ったんです。
我々の強みとして、東京で活動されているミュージシャンの皆さんとリレーションが取れることをお伝えして、お互いの足りないところを埋めていった感じですね。奥野さんが前もって会長を口説いてくださっていて、とても乗り気でいてくださって、ありがたかったです。会長も「やろうよ」と言ってくださって。
その時点ではMASTER 8 JAPANのネーミングもまだ無くて。そこから始まるという感じでしたね。
ーーMASTER 8 JAPANでどういう展開をしていこうと?
特に「魅せ方」に拘りました。プロモーションやブランディングに関して、アーティストの皆さんにご協力頂き、そこを軸にブランド名やロゴなど、写真の1枚から吟味して作ってきました。マネージャー業に繋がることが多かったと思っています。
あと「ピックは100円」という常識を崩したかった。そこから商品展開をどうするとか準備がはじまり、1年くらいかけて作っていきましたね。
Crossfaithのツアー中、実際の会場の音響システムで、PAさん交えてピックの素材やエッジの研磨の種類などを試す機会を持ったりして、種類の違いによる理想のサウンドを確認する場を持ったり。
池田さんも直接ミュージシャンの声を聞く機会が多くなかったようで、商品開発への大きなキッカケとなったようでした。自分たちはアーティストとのコミュニケーションを得意としてやってきましたので、そのあたりをメリットに感じてもらえたのかと思います。
ーー市場にMASTER 8のピックを流通させていく過程でご苦労されたことは?
うーん、ミュージシャンの方々がいてくれたのでそんなにないですかね。商品の説得力ってプロミュージシャンが使っていることに尽きると思うんです。なので自分たちの苦労というよりも、試してもらうよう商品をお渡しさせてもらったミュージシャンの皆さんのご苦労というか(苦笑)。
楽器屋さんに置いてあってもポンと手にとってもらうことはなかなか難しい。ミュージシャンのシグネチャーモデルで存在を知っていただいて、それをきっかけにレギュラーモデルに興味を持ってもらおうという考え方でした。
楽器好きのミュージシャンの方とコミュニケーションをとるのが私たちの通常業務なので苦労という感じではないですね。
「作る側」と「使う側」の双方の橋渡しができて、ピックの”答え”のようなバシッと一本通ったものを示したかったというのはあります。
ブランドネームに関して、最初は「MASTER 8 GUITAR PICKS」という名称にしようと思っていましたが、海外展開も見据えて、ギターにまつわる他のアイテムも展開していこうと「MASTER 8 JAPAN」としました。
最近はコーティング弦も販売開始しました。弦は”INFINIX”というモデルのピックとの組み合わせを想定した仕様になっています。どちらから知っていただいても良いと思っています。
マネージメントが向いているがゆえのマルチな活動
ーーなかなかこうしたマルチタスクができる人は少ないと思います。そういう立場になろうと思った、またなれたのはなぜでしょう?
世話焼きなんでしょうね。マネージャー業を経ているので、そういう思考回路になっている気がします。対象がモノなのかヒトなのかって違いだけで。機材好きとマネージャー業のお世話好きが合致した結果なのかもしれません。
アーティストマネジメント業、テック業、ピックブランドの運営。やっと一生の仕事に巡り会えたなと思っています。その全てがミュージシャンから要望を頂けるうちはずっと続けられる仕事だと思います。ピック製造の池田工業の皆さんからは、アーティストからの要望にはすべて「イエス」と答えてくださいと言われています。
ーー本当にマルチですね。
本当は一つのことを突き詰める職人になりたくてギタークラフトを学んでいたんですが(笑)。学生当時に「これは向いていないかもしれない」と思う自分もいました。
どこか自分のことを俯瞰している部分がある。元ベーシストなので冷静でないといけないポジションですし、俯瞰することは大事だと思っています。
ーーこれまで「その」瞬間ってあったのですか?
少し前まで一つの仕事に絞らないといけないんじゃないかって思った不安な時期もあって。
でも吹っ切れました。「思いっきり全部やろう」と。自分から辞めなくても良いかと。
ーー3つのお仕事のバランスのとりかたは難しくないですか?
それぞれの現場の方に、すべて説明しています。自分がこういう立場でやらせてもらっていますということは丁寧に説明しますね。
ーーだからこそ信頼関係が構築できているんでしょうね
行った先々で自分のしている事を、有益に感じてくださると嬉しいですね。
ーー吉田さんのインスタを拝見すると、きちんと家族の時間ももたれていて。
自由にやらせてくれている妻には感謝しています。最初はこの状況に「大丈夫かな?」とも思っていましたが、家族の支えで安心して仕事に打ち込めています。
ーーそういうことが許されるにも人間のタイプがあると思うのですが?
そういえば、僕は一念発起みたいなものがひとつもないんです。必要に応じてはじめたことばかりで。
MASTER 8 JAPANの野望
ーー今後の展望は?
もっと海外に展開していきたいと思っています。2020年に初めてNAMM SHOWに出展しまして、海外展開を本格化させる予定だったのですが、直後にコロナ禍に入ってしまったので、改めて作戦を立て直しています。
池田工業のピックは世界規模で大きなシェアを持っています。1位との開きは大きいですが、そこをひっくり返していくのは夢があるなと思いますね。ニッチな分野ですが「楽器界のマイナースポーツ」みたいな(笑)。
ーーありがとうございました!!
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(編集&撮影 赤坂太一)