4ms Pedals Atoner【エフェクター珍百景002】

正解の音が一つもない異形なファズ

井戸沼尚也のエフェクター珍百景 4ms Pedals Atoner

エフェクターのレビュワー、ライターとして活躍し、DISCOVERでも「ゆるゆる調査オンライン」などのブログでお馴染みの井戸沼尚也さん。ここは井戸沼さんが所有する個人的なエフェクターのコレクションの中から、一風変わった面白いモデルを紹介するコーナーです! 

第2回は、4ms Pedalsの「Atoner」を紹介します。

発端は失敗した自作のBig Muff

このファズにはツマミが9個あります。

今でこそ「ツマミ多い系ペダル」というカテゴリー(?)も、ないわけではありませんが4msPedalsが登場した90年代当時(後述しますが、その頃は3msPedals)、これだけツマミがあるペダルは異形であり邪悪な何かという感じでした。

つまみがマジで多い「4ms Pedals Atoner」
ツマミだらけ! さらにいうと絵が下手(笑)!

今回ご紹介する4msPedalsの「Atoner」は同ブランドの「Noise Swash」と並んで、ツマミみ多い系クレイジー・ファズのはしりともいえる迷機です。その迷機っぷりは後ほどご紹介するとして、まずはブランドの成り立ちについてみていきましょう。

4ms Pedalsについて

「4ms Pedals」は1996年、3ms Pedalsとして米国イリノイ州シカゴ近郊でブランドを立ち上げました。

創始者のダン・グリーン氏がエフェクターを作り始めたキッカケは「ギターとアンプを買ったらお金がなくなり、ネットで回路が公開されているのを知って、自分でエフェクターを作り始めたものの失敗……。しかしその音が気に入った」という、ある意味で90年代自作ッカーの王道ストーリーを地でいくものです。

しかし! 失敗したBigMuff(らしいです)から、ここ(Atoner)までの跳躍(?)が尋常じゃないですね。
なんでこうなったのか、資料が少ないブランドなので正直よくわかりません。

わかっているのは、米国イリノイ州シカゴ近郊で発足 → ミズーリ州セントルイスに移転、2002年に「4ms Company」に改名 → 2009年にテキサス州オースティンに移転 → 2012年にオレゴン州ポートランドに移転、と移転好きな会社ということくらいです(笑)。

うちのAtonerは、基板に“Atoner V1.7 2007 4ms Pedals”の文字が見えるので、セントルイスに移転し、”4ms”に改名してからのものということになります。

ヴァージョン1.7を示す基板の4msPedals Atoner
ヴァージョン1.7を示す基板

ツマミは多いが説明書はない「不」親切設計

「Atoner」とは「罪を償う者」という意味だそうです。なんだか凄そうでしょう? 
しかし音的には罪を償う気は微塵も感じられません。

では、外観から見ていきましょう。

筐体はいわゆるお弁当箱サイズなんですが厚みがあるため異常にデカく感じます。スイッチも踏みにくいことこの上なしです。今回、世界の定番・BOSSと大きさを比較してみたのですが、こうしてみると印象ほどデカくはない?

4ms Pedals AtonerとBOSS SD-1でサイズを比較してみた。
BOSSよりはるかに横長です。おおよそ横に3台分くらい。
4ms Pedals AtonerとBOSS SD-1で高さを比較してみた。
厚みの違いは僅かですが、実際にはめちゃくちゃ踏みにくい

上側の蓋を開けてみると、そこに基板がくっついていて、大きな箱の下側はスッカスカです。

あまりエフェクターを所有したことがない人が見ると軽くショックを受ける系ですが、中がスッカスカのペダルなんていくらでもあります。

●●●●●(飲食店)で、メニューの写真と料理が違っているからといって、いちいちショックを受けていたら飯も食えん、そんな感じです(笑)。

4ms Pedals Atonerの筐体の中はスッカスカでした
こんな感じで箱の中はスッカスカ! まぁファズだし文句はない(笑)
4ms Pedals Atonerの基盤
基板の右上には、パーツが搭載されていない。いろいろな追加オーダーに対応していたようなので、その際にはここにパーツが取り付けられ、つまみがさらに増えていったのだろう。

冒頭にも述べたようにツマミは全部で9個。個々に効くものもあれば、連動して音が変化するもの、全く効いていないように感じるものもあり、音作りがしにくいことこの上ないです。

さらに説明書は付属しない、音は自分で作ってくれという、超々不親切設計です。

小鳥のしゃっくり、スリッパを履いた悪魔が早足で追いかけてくる音……これはファズなのか(笑)

それでは、実際に音をチェックしていきましょう。

最初は、オフの素のギターの音、次にAtonerで出せる最もファズっぽい普通の音を出してみます。

それ以降は、ツマミの動きに合わせて音がどう変化するか、私にもわかりませんのでとにかく音を出してみます。では動画をご覧ください。

いかがでしたか? 

普通、良いファズには正解の音と使い方があるのですが(例:ジミ・ヘンドリックスのFuzz Face、デヴィッド・ギルモアやJ・マスキスのBig Muffなど)、このペダルには正解がひとつもなく不正解しか用意されていない地獄のようなペダルだとわかるかと思います。

そのサウンドをあえて言葉にすれば「小鳥のしゃっくり」、「スリッパを履いた悪魔が早足で追いかけてくる音​」、何かのアイドリングの音などが聴こえてきましたね(笑)。

ちなみにこの「Atoner」はすでにディスコンで、YouTubeで検索してもあまり動画が出てきませんので(「Noise Swash」の方がまだ多いですね)、世界的にみても貴重なAtonerの新作動画ということになります。

それでは、次回のエフェクター珍百景も、お楽しみに!

(執筆&動画撮影:井戸沼尚也 編集:赤坂太一