ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACE【エフェクター珍百景005】

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACE【エフェクター珍百景005】
ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACE

エフェクターのレビュワー・ライターとして活躍し、DISCOVERでも「ゆるゆるchousa-online」などのブログでお馴染みの井戸沼尚也さん。ここは井戸沼さんが所有する個人的なエフェクターのコレクションの中から一風変わった面白いモデルを紹介するコーナーです! 

第5回は「ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACE」を紹介します。

あのアービターのペダル!! でもFUZZ FACEではない(笑)

こんにちは、井戸沼尚也です。

このコーナーでは、ヘンテコな「迷器」を紹介することが多かったのですが、今回はガチの名器です! 

なんと英国アービター社のヴィンテージペダル!! といっても、世界中のファズ・マニアが愛しているFUZZ FACEではないところが、このコーナーの「らしい」ところだと思います(笑)。

これはなんというか、簡単にいえばトレブルとベースをブーストできるペダルなのですが、後述する「なんともいえぬコク」を持ったペダルです。

アービター社がFUZZ FACEを発表したのが1966年と言われておりまして、このTREBLE & BASE FACEも同じ時期に発表されたもののようです。が、私のペダルは後期型で、正直なところ何年製なのか、よくわかりません。

1968年には顔型の口の部分の表記が「ARBITER ENGLAND」から「DALLAS – ARBITER ENGLAND」に変わるので、66年後期位から68年のどこかの間で作られたものなのかなぁ、という感じです。

前期型と後期型の見分け方は割と簡単で、私のペダルのように3つのコントロールが横一直線に並んでいるのが後期型で、前期型は真ん中の「PLUS(音量と若干の歪みに影響します)」のノブが下に下がっていて、「Vの字」を浅くしたような配列になっています。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEの外観、全体像
外観です。コントロールが横一直線に並んでいます。
ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEの底面
裏側の写真です。

これで気づく人は相当のマニアだと思いますが、私の個体の裏蓋を止めるネジはオリジナルではありません。このネジを無くすと大変なのですが、無くす人が多いようです。私は三軒茶屋のネジ屋さんで見繕ってもらいました(笑)。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEのロゴ部分は人が笑ったときの口のように見えますね
笑顔の口の中に、1968年までのものを示す「ARBITER ENGLAND」の文字が!

もしジミ・ヘンドリックスがこれを踏んでいれば……

このペダル、残念ながら人気がなく、生産数も少ないようです。

有名な人が使っていなかったというところが致命傷です(ステイタス・クォーの人が使っていたという情報は聞いたことがありますが……)。ちょっとでいいからジミ・ヘンドリックスが使っていた写真でも残っていれば今ごろこれもお宝なのですが……(笑)。

あまり使われなかった理由は(推測ですが)、FUZZ FACEに比べて回路が複雑でパーツ点数も多いのに(つまり原価が高かった=販売価格が高かったと思われます)、踏むとFUZZ FACEほど劇的な効果ではないため、当時弾き比べたギタリストはみんなFUZZ FACEを買った、ということではないでしょうか。

当時のカタログの写真を見たことがありますが、FUZZ FACEには7、TREBLE & BASE FACEには9という数字が見えました。おそらく当時の販売価格だと思われます。

そして、以下は憶測ではなく所有者である私が知る事実です。

まずノイズがめっちゃ大きい(笑)。踏むとハイゲインペダル並みに「シャーッ」といいます。次にブーストペダルなのでアンプがクランチ状態なら歪みますが、歪み量は決して多くはありません。また手元のボリュームを絞るとクリーンになりますが、「シャーッ」は残ったままなので、とても使いにくいです(笑)。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEのインとアウトは現代のペダルと左右が逆
インとアウトは現代のペダルと左右が逆です。ここはFUZZ FACEと一緒です。
ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEのTREBLEノブ
TREBLEノブ

TREBLEノブ。ここがこのペダルの肝です! カミソリのような鋭いトレブルが楽しめます。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEのPLUSノブ
PLUSノブ

PLUSノブ。現代のペダルでいうところの、レベルと考えてください。私の個体は、ここを動かすとちょっとガリが出ますが、固定で使うので特に問題ありません。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEのベースノブ
BASSノブ

BASSノブ。ここを上げても、現代のペダルのように物凄くローが出るわけではありません。下げると結果的にトレブルが目立ち、よりカミソリ・サウンドが際立ちますが、ローミッドがかなり寂しくなるので、上げておいた方が良いと思います。

唯一無二のブースト・サウンドとバイパス・サウンド

ここまであまり良いことを書いていませんが(笑)、ではなぜこのペダルが好きなのか。

話は簡単で、ノイジーであること、歪み量が少ないことを我慢できるくらい音が良いからです。ブーストサウンドが良いのはもちろんバイパスサウンドも最高です。

FUZZ FACEよりも遥かに多いビンテージ・パーツを経由した音は、要は劣化しているのですが、その具合がたまらなく良いんです。私は、デジタル機材とこれを組み合わせて、「オンにせず繋いでおく」ことがあるほど、このモデルの劣化したバイパス音が気に入っています。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEの内部、基盤
内部の写真

内部の写真です。こういう熱心なマニアがいるモデルに関しては、あまりこういうのは見せたくないのですが……。まぁ、これを通ると心地よく劣化するわけです。

「井戸沼の所有機、あのパーツが変わってるぜ」とか言わないで下さいね。私の個体は購入した時に、おそらくノイズを低減する目的で変な抵抗が取り付けられていたのですが、それを外して元の回路に戻しています。ですから当然フルオリジナルではありません。

ARBITER ENGLAND/TREBLE & BASS FACEの裏蓋にはダンボールがはられている
裏蓋の内側に、内部を保護する段ボールが付いているのはかなり珍しいそうです。でもこんなの、誰でも作れそうですね(笑)。

では、ここでお待ちかねの動画を紹介します。

動画では、バイパス音を聞いてもらうために、最初はTREBLE & BASS FACEを繋いでいないアンプ直の音(INにケーブルが刺さっていませんよね?)、次にバイパス音、それからブーストをオンにした音の順でサウンドが収録されています。

ギターはごく普通の新品のメイドインジャパンのフェンダー・ストラトキャスターで、アンプは50th記念の小さいマーシャルJCM800ヘッドをマッチレスの12インチ一発のキャビに繋いでクランチさせています。それではご覧ください。

いかがでしたか? アンプ直に比べるとバイパス音は明らかに劣化していますが(ケーブルも一本増えますし)、「なんともいえぬコク」があるのが分かりましたでしょうか? 明らかにハイは落ちていますが、やや歪んで味がありますよね。

そしてブーストサウンドは、突き刺さるようなトレブルが出ているのがわかると思います。ジャッキジャキです。ですがそれが嫌な音かといえばそんなことはなく、現代のギターとアンプを使ってもご機嫌なビンテージ・サウンドに仕上がっているのがわかるかと思います。

この音がハマる音楽は少ないかもしれません。でもハマれば最強です。シャーッという凄いノイズを確認していただくためにも、ぜひ動画は最後までご覧ください。

ちなみに、私はこのノイズについてTREBLE &BASS FACEに詳しいある方に相談したことがあるのですが、対策として頂いたアドバイスは「弾き終わったら、オフる」という実にシンプルなものでした(笑)。まるでファズですね!

それでは、次回のエフェクター珍百景も、お楽しみに!

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(執筆&動画撮影:井戸沼尚也 編集:赤坂太一