A/DA FLANGER【エフェクター珍百景003】

空間をねじ曲げまくる、フランジャーの王様

井戸沼直也のエフェクター珍百景 A/DA FLANGER

エフェクターのレビュワー、ライターとして活躍し、DISCOVERでも「ゆるゆる調査オンライン」などのブログでお馴染みの井戸沼尚也さん。ここは井戸沼さんが所有するエフェクターコレクションの中から、一風変わった面白いモデルを紹介するコーナーです!

第3回は、A/DAの「FLANGER」を紹介します。

Pat Traversが愛したフランジャー

こんにちは、井戸沼尚也です。

突然ですが「フランジャー」って機種名、かっこよくないですか? 私は子ども(5歳男子)と怪獣ごっこをする際に、命名を迫られると「怪獣フランジャー」を名乗ることにしています。ジャーって響きが、特にいいんですよねぇ(うっとり)。

さて、今回紹介するのは、海外のエフェクター誌やWeb等で“King of Flangers”と呼ばれているA/DAのフランジャーです。David Tarnowski(デビッド・ターノスキー)というエンジニアが1975年に起こした会社「Analog /Digital Associates(略してA/DA)」が、77年に発表したモデルです。

A/DA FLANGER フランジャー
デカいし筐体から電源コードが出ているし何かと扱いにくいが、それを補って余りある強烈な音の逸品です!

70年代には当時の人気ギタリスト(……でもないか苦笑)、Pat Traversのバンドとエンドース契約をしていたようで、ロックの隠れ名盤『Pat Travers Band Live! Go for what you know』でA/DAのフランジャーが使われまくっています!

Pat Travers Band Live! Go for what you know

これが『Pat Travers Band Live! Go for what you know』! なぜかサブスクにはないけどYouTubeにはあります。フランジャー云々を置いておいても必聴! 特にベーシストの皆さん聴いてお願い

はっきり言って下品なくらい強烈にかかるフランジャーなんですが、それが洗練をよしとする80年代になると不評を買って、一度生産が終了となってしまいます。再度注目されたのは90年代になってからで、そこで改めてリイシュー品が作られます(が、現在はそれも生産終了……)。今回ご紹介する個体はこのリイシュー・モデルです。

A/DA FLANGER 筐体の裏面
裏側です。当時の輸入代理店の日本エレクトロ・ハーモニックス社のシールが貼ってあります。
A/DA FLANGER 筐体内部 基盤
裏蓋を開けてみました(基板が固定されていて外すのが怖かったので、これで勘弁してください)。

サウンドの要になるBBDは、オリジナルの初期はSAD1024Aが使われていて、その後MN3010になったようです。

操作の肝はRANGEとENHANCE

本機のコントロールは、揺れる帯域を決めるHARMONICSスイッチと、THRESHOLD、MANUAL、RANGE、SPEED、ENHANCEの5つのノブがあります。操作の肝はRANGEとENHANCEで、これをどこに設定するかで音が回転する際のエグみが決まってきます。後ほど動画で確認してみてください。

A/DA FLANGER コントロール部
コントロール周り。ノブの周りにドットの目盛りが付いているモデルもありますが(オリジナル機?)、これにはありません。
A/DA FLANGER 背面
IN、OUTの他に、エクスプレッション・ペダルを繋いで操作できるCONTROLジャック(この写真では左から三番目)が付いています。
A/DA FLANGER と BOSS SD-1のサイズ比較
BOSSのコンパクトと並べると、大きさもさることながら厚みもあるのがわかります。

宇宙に放り出されて、帰ってこれなくなる音

それでは、実際に音をチェックしていきましょう。

最初はバイパスの音、次にエフェクトをオンにします。内臓がねじれるようなローの音に注目してください。では、動画をご覧ください。

いかがでしたか? 途中、普通に使えるコーラスのような音もありましたが(ノブは全部12時方向)、RANGEとENHANCEをフルにすると宇宙に放り出されて帰ってこれなくなるのがわかったかと思います。

最近はフランジャーを積極的に使った音作りはあまり聴くことがなくなりましたが、流行は繰り返すものなので、今のうちから使っておけば一周回ってあなたが最先端になることもあり得ます! 

いかがですか? A/DAのFLANGER。
私も今回弾いてみて、改めて使っていきたいと思いました。

それでは、次回のエフェクター珍百景も、お楽しみに!

(執筆&動画撮影:井戸沼尚也 編集:赤坂太一