バランスドテンション? ハーフラウンド? 珍しいベース弦レビュー【ダダリオ編】
いつも定番で済ませていない?
ダダリオといえば、言わずと知れたメジャーな弦ブランドです。読者の皆様にとっても高い認知度を誇るメーカーでしょう。
じつに多くの材質やゲージがあり、なんとなく売り場で見かけるセットを張っているのではないでしょうか。「ずっと使い慣れているから」、「ギター弦と違って高いから冒険しづらい」といった心の声がこちらまで届いています。とてもわかります。
ならば! Discoverで馴染みのないセットを試してみよう! と思ったわけです。その検証作業によって「こんな音が欲しい人に」、「こういうのは向かないかも」とシチュエーションを思い浮かべながらレビューをしていきたいと思います。
記念すべき第一弾はダダリオのバランスドテンション「EXL170BT」とハーフラウンド「ENR71」。なぜこの弦を選んだのかといえば、メジャーな「EXL170」のバリエーションとして、わずかにゲージが違う「EXL170BT」と完璧なフラットワウンドではないハーフラウンドがどれくらい違うのかという点が知りたかったから。
今回のレビュー動画を観ていただき「もしかしたら自分には〇〇が向いているのかもしれない」、「理想のサウンドはこっちじゃないか?」と、より良いサウンドへの一助となれば幸いです。
今回の使用機材
今回レビュー用に用意したのはフェンダーUSAの「American Performer」シリーズのジャズベース。こちらは中古品として販売中です(1/31現在)。ネックも握りやすくこれぞジャズベースというサウンドを放出してくれるモデルとなっています。
アンプは店頭試奏用のトレースエリオット「ELF」。超コンパクトながらパワフルかつ伝統的なトレースサウンドを楽しめるモデルです。
Fender American Performer Jazz Bass 2020年製 【中古】
TRACE ELLIOT ELF ベースアンプヘッド
定番モデルも交えてレビュー!
EXL170(基準セット)
まず基準となるサウンドが無いと比較しづらいということで、定番のXLシリーズからEXL170をチョイス。こちらはバランスドテンションとハーフラウンドのどちらにも設定のあるゲージとして、新品を用意してジャズベースに張りました。
ゲージは、1弦から順に45-65-80-100。
XLシリーズの特徴としては、きらびやかなトレブルと滑らかな手触りが挙げられます。これ以外使いたくない人も多いと思います。メーカー内では一番流通しているモデルでもありますので、どこでも買えていつでも同じ音が出せるのも魅力ですね。ツアー先でも手に入るシリーズでしょう。
ちなみにチューヤオンラインでは買い置きにもピッタリな複数セットも販売しています。
EXL170BT バランスドテンション
お次が、多くの人が気になっているであろうバランスドテンション「EXL170BT」。パッケージの上部に印が入ってますね。ゲージは1弦から45-60-80-107。2弦が細く、4弦が太い。これがサウンドにどう影響するのか。もしEXL170を日常的に使用していて、わずかな不満があるとしたらこのセットが解消してくれるかも? という予感もわきますよね。数値のイメージどおり太いからサウンドもより太くなる……? かどうかは動画の結果をご覧ください。
ENR71 ハーフラウンド
そしてハーフラウンドと記載されている「ENR71」。パッケージ上部の帯に「SEMI FLAT WOUND」と書いてあります。セミでハーフということで、表面はフラット、芯線側はラウンド(円弧)でラウンドされている弦ということになります。
通常のフラットワウンドは芯線に巻きつける巻弦の断面が四角でキレイに敷き詰める感じで巻き上げられることによってギザギザの無いスムースな表面になります。このハーフワウンドは表面こそフラットでスベスベですが、芯線に触れる部分はラウンド形状で、円の頂点が芯線に触れているという製品です。これによってフラットワウンドとラウンドワウンドそれぞれの特性を得られる、ということなのでしょう。
「フラットワウンドの音は好きだけどラウンドワウンド的なサスティーンがほしい」という人には気になるセットではないでしょうか? ちなみにゲージは他のモデルと同じ45-65-80-100。
パッケージも他のモデル同様、ピンクに統一されています。
いざ試奏!
では定番のEXL170から順番に張り替えながら弾いてみたいと思います。
総評 〜ゲージの太さが音の太さとは限らない
3種類の弦の特徴、動画で伝わったでしょうか?
バランスドテンション。これはサウンドもさることながらプレイヤーが感じる弾き心地の違いが大きい印象があります。2弦を細くすることで65のときよりもハッキリとした発音でフレーズの繋がりが良く聞こえたのではないでしょうか。オブリガード的なフレーズを弾いた時、3、2、1弦と駆け上がっていくときに音がちゃんと繋がっているように聞こえます。聞こえやすいので弾きやすい。和音の響きも良かったですね。
逆に太くなった4弦(100→107)ですが、予想とは裏腹に、実音というか基音が大きくなった印象があります。細い100の方が倍音が豊かで開放弦でドーンといきたい時に向いている印象です。そのドーンをゴンッとしたいときには107の方が良いのでしょうね。いつも基音が大きく感じていて「もっと豊かに響かせたいな」という人はゲージを細くしてみるのは、かなりアリです。
改めて最初のEXL170を聴くと、4弦開放の音がドーンと豊かなローが響いていることがわかると思います。これは好みですね。
ちょっと前に井戸沼さんがギター弦で検証していたことにも通ずるものがあると思います。
ハーフラウンドに関しては構造から違うのでフラットワウンドらしさの中にラウンドワウンドのようなサスティーンが感じられたのではないかと思います。音色はもちろん、キチンとそれぞれの役割を果たしている良いとこどりの”ハーフ”ということですね。
アタック音はフラットワウンドのソレで、サスティーンがラウンドワウンド並。「サスティーンが短いのが苦手なんだよな」って人にはオススメできます。
オマケ:数値で見る弦の違い
パッケージには、それぞれのテンション値が記載されています。2弦を比較してみると、基準のEXL170に採用されている65で21.93kg、バランスドテンションのEXL170BTに採用されている60で18.53kgと、負荷が3.4kgも違います。
逆に4弦を見るとバランスドテンションの107の方が張りが強いことがわかります。
セット全体で比較すると、EXL170が165.65LBs、EXL170BTが162.9LBs、単位をわかりやすくkgに直すと1.25kgの違いです。常に80kgほどの張力がかかっているネックへの負担は、ほぼ変わらないといって良いでしょう。まさにバランスドテンション、といったところでしょうか。
ちなみに「LBs」はポンドを示す単位です。
ハーフラウンドのパッケージもチェックしてみました。178.20LBsと基準弦のEXL170の165.65LBsよりもプラス12.55LBs、単位を変換すると5.69kgも張力が高いですね。完全なフラットワウンドはどれくらい張りが強いのかも気になりますね。
同じゲージ、同じチューニングでも、ワウンドの仕方や材質によってサウンドはもちろん、弾き心地やネックにかかる負担も違うこともわかりました。
ということで、今回の実験はいかがでしたでしょうか。シリースが同じでゲージの差がわずかでも、弾き心地やサウンドはキチンと変わります。より好みのサウンドに近づけるようなヒントになれば幸いです。
引き続き、こうした細かい検証をしていきたいと思いますので次回の実験もお楽しみに!!
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(執筆&編集&動画編集:赤坂太一)